2012/09/16

【一人ぼっちのサマータイム】便利屋さんのお仕事内容や収入、教えます!

一人ぼっちのサマータイム

部屋は薄暗く、あちこちでキャンドルが揺れていた。
テーブルの上にはワインとデパ地下で買ってきたらしいお惣菜がきれいに並べられている。
「さあ、そんな所に突っ立ってないで座ってください」
座る場所は二人がけのソファーベッドしかない。
この家(と言っても1DKだが)の事は全部知っている。
僕は彼女の隣に座った。

「長塚はん、人手が足らんのや。小さい引越し、あんた一人で行ってくれへんか」
そして
「若い女の人の声やったで」
「行きます行きます。よろこんでー」

と言うわけで丁度、1ヶ月前にこの女性の引越しを手伝った。
引越しと言っても、ちゃんとした住家が決まるまでのマンスリーマンションなので、車から簡単な日用品を運び出す程度だった。
ただ、エアコンが壊れているとの事で僕も女性もたっぷりと汗をかいた。
女性は30歳前後。
奈良県の山奥からその日、車で神戸にやってきたそうだ。
「田舎もんだからオシャレな神戸になじめるかしら」
陽に焼けた顔でくったくなく笑った。
黄色いタンクトップが似合う小柄な明るい女性だ。

「長塚はん、ご指名やで」
「便利屋さんの用事で僕に指名があるなんて?」
「若い声の女性やったで。電話番号と名前は……」
「ああ、あの時の女性」

僕は揺れるキャンドルを見ながら、マイナスの糸口となる会話を探し続けている。
「2時間だけ一緒に食事をして話をして下さい」
それが今回の依頼だった。

今日はカーキのタンクトップ。そして部屋の中なのにサングラスをつけたままの女性の依頼からまだ10分しか経っていない。
「神戸の生活はもう慣れましたか?」
「だめです。みんなキレイな人ばかりで私なんか」
「そんな事ないですよ」と言いかけたが口をとざす。
「全然なじめないんです、会社の人と」
「まだ、1ヶ月じゃないですか」
「やっぱり、田舎へ帰ろうかと考えてるんです」
沈黙が続いた。
クーラーはまだ直っていない。
女性は時折タンクトップをぱたぱた揺すり「暑い暑い」と笑う。
彼女の熱気が伝わってくる。僕はただひたすらワインを飲む。
「けっこういけるんですね。じゃ、私ももっと飲もう。もう一回かんぱーい」
「ええ、かんぱーい」小声で僕は応える。
「結婚はされてるんですか?」と女性
「ええ、まあ」と僕。
「そうでしょうね」
「ええ、まあ」
「ねえ、便利屋さんの趣味は何ですか?」
「まあ、一応、音楽が……」
「うわーい。私もです。何かかけてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
女性はあの時、僕が運んだ大きなCDケースを持ってきた。
「変な趣味でしょ」
CDケースの中身を見て僕は愕然とした。
エリッククラプトン・オールマンブラザース・ジェフベック・ジミヘンドリックス・ローリングストーンズ・BBキング・ジャニスジョプリン
どれもこれも僕の大好きなミュージシャンだ。
「こんな古いの知らないですよねえ」
マイナスの糸口が見つかった。
「ええ、全然知りません」
(本当は大好きだ……)
「残念、なんだか便利屋さんって、バンドしてそうに思ったんだけどなあ」
(ずっとバンド続けてます……)

そう言って、部屋の女性はサングラスを少し上げてジミヘンのヘイジョーをかけてハミングをする。
彼女はそれから約束の2時間、ディユアンオールマンの死因についてやクラプトンの名曲「愛しのレイラ」がなぜ生まれたかなどを語った。
「やっぱり興味ないですか、こんな音楽」
「ええ、だめですねえ、やっぱり」

玄関先で2時間分の日当、5千円を受け取った。
彼女は「また来て」とは言わなかった。
僕は帰り道々、握ったままのくしゃくしゃになった5千円札に聞いてみた。
「僕のした仕事は正しかったか?」
もちろん、5千円札は答えない。


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そのかわりに、彼女が最後にかけたジャニスジョプリンのサマータイムが僕の頭に流れてきた。
まだ、彼女はあの切ない歌をあの部屋で一人、聞いているのだろう。

僕は足を止めた…………。



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